■ 菱形 俊樹 ヒシガタ トシキ
カナダへ外交。
あんなことを言っていたので、思わず成田空港で武くんを探してしまった。
騒々しい小綺麗なフロアに、彼の姿は無い。
もとより、私は彼がどんな服装の趣味をしているのか、なども知らなかった。そこに彼がいたとしても、声を掛けられるまで気付かないことだろう。
あの部屋で会った時は、白いブラウスだったように思う。髪に花を差していたし、あんなギャグのような騒動があったこともあって、細かい部分は覚えていな
かった。
大きな原因は……すぐにベッドに横になってしまったから、彼の顔しか認識していなかった……のだろう。あの時は、顔とは言っても、よくよく確認していた
訳ではなかった。まだ彼と関係を継続させるつもりもなかったから逃げ腰だったのもある。
私は、日本では欧風の顔だちだと言われるが、ヨーロッパに行けば、完全に日本人の顔だと言われる。
『日本人なんだから、オリエンタルビューティーが一番だろ。お前は、洋風の顔だから日本で目立つんじゃなく、世界中どこに行っても、「日本人として」綺麗
なんだよ』
そんなことを正雄が何度も言っていた。
武くんは、私よりももっと日本人顔だった。だが、目は大きいし、切れ長だけれど二重なのだ。……だった筈だ。
逃げよう逃げようとしていたからか、細部が思い出せない。
ただ……ドアの前で彼と立ち会った時、今思い返せば日本武尊を名乗っても良いほどに、凄絶な光を目に宿していた。
戦う男の目だ。
私と、同位に、戦える目だ。
正雄と、同じぐらい、闘える、目だ。
彼を自分の後釜に、と、正雄は本当に思ってくれているのだろうか。
ふっきれる筈が無い。
正雄とは、三〇年以上一緒にいたのだから。
それでも……
愛されたい……!
抱き締められたい!
抱き締めたい……
力の限り抱き締めても霞と消えない肉の躰が欲しい。
強く……突き上げられたい……
正雄……武くん……
どちらに対しても、誠実で無い気がする。
あれから、武くんにはあっていない。
どろどろに抱き合って、とろとろに口接けて……半身を引き裂かれるかのような思いであの部屋を出た。部屋の前で武くんは右、私は左の廊下を進む。ああ、
彼はそっちから来たのか。
正雄と離れる時と似ていて、なんだか笑ってしまう。
たかが一晩で、私の心はこの子供に吸い着けられてしまった。ただ二回、肌を触れ合わせただけなのに。
私は、そんなに惚れっぽかったのかな。正雄にも、そう言えば一目惚れだった気がする。そう言うことを考える前に出会った。ただ、ずっと一緒にいた。
正雄を好きになってから、他の誰をも見ることは無かった。見ていれば、誰かを好きになっていたのだろうか……
愛したい……
愛されたい……
触れたい……
触れられたい……
抱かれたいっ……
その心が突き抜けて、必死で正雄を忘れようとしている、私。
滑稽で……笑ってしまう。
「あ、」
と彼が声を出したので振り返ったら、何かをこちらに投げた。咄嗟に避けようかどうしようか迷い、機械のようだったので受け止める。携帯電話だ。
私にこれを持っていろ、と? と顔を上げたら、すでに武くんはいなかった。真っ白い廊下だけが目の前に広がっている。
シミ一つ無いその白さに、三半規管が狂ったのか、目眩を感じた。仕方がないので、携帯電話を胸ポケットに入れる。元来た廊下を戻ると、リムジンがいて、
乗り込んだ。クッションに沈んで、天井に鉛のような息を吐いた、瞬間……
「っっ!」
突然、シャツが左乳首をこすりあげたから跳び上がった。先程左の胸ポケットにいれた武くんの携帯が振動している。液晶には『タケルくんでーす(ハー
ト)』と出ていた。数秒それを睨み、携帯を開いて着信ボタンを押し、左胸を左手で抑える。さっきの振動が、そこからジワジワと熱を産んで……腰が熱くなっ
てしまった。
あんなにしたのに!
『わーい。電話出てくれてありがとーっ、俊樹さんっ。それ、持っててもらってイ?』
明るい声。字で書くと共通語だが、イントネーションが西の発音で、耳に新しくて心地よい。
今までの私の人間関係には、無かった、言葉。声。
「非常に邪魔だ。家に置きっぱなしになるよ」
大体、公務で出ている時は自分の携帯を持っているので精一杯だ。他は臣斗くんが全部持っているから、こんな携帯を臣斗くんが持っている鞄には入れられな
い。
『うん、それでえーよっ。持っててくれたらウレシーッ! メールも電話も、盗聴防止になってんのん。安心してなっ』
ゴム毬のように跳ねている声がかわいい。やはり若いな……若い……あれで疲れていない彼はとても若過ぎる……
そうだ。直樹より年下なのだ。
息子より……年下なのだ。
私も、頭が狂っているな。
武くんのニコニコ声を携帯の向こうに聞きながら自嘲する。
ああ……でも、もう駄目だ。この声が、かわい過ぎてたまらない。ようやく歩きかけたふさふさの小犬が、ちぎれんばかりに尻尾をふりながらわふわふと、よ
たよた歩いてくるかのような雰囲気だ。思わず笑顔で見守ってしまう。立ち上がれずに、こけてしまうのすら愛らしい。そんな小犬。忙しいのに、歩いて来るの
を見守ってしまう。自分の手で、その愛らしい頭を撫でて上げたいがために……待って、しまう、小犬。
シールドグラスの向こうに近所の景色が見えた。もう家に着いてしまったらしい。残念だが、この時間に喋りながらエントランスには入れないな。
「マンションに着いてしまったよ、武くん」
『あー、残念っ! じゃ、また今度っ。しょっちゅう電話したら邪魔やろから、しばらくジシュクしとくしー。でもゴメンナッ』
「何を謝るのだね」
彼の息が一度、聞こえた。声が聞き取れていないのかと携帯を耳に押し付ける。
『……我慢できんよぉなったら……電話してまうから……邪魔やったら……遠慮のう切ってな……?』
低い、声。小さな、声。囁く、声。
『大好き。俊樹さん……今日はホンマありがとう……ごっつ嬉しかったん……またね……』
プツ、と。通話の切れる音さえ、悲しげだった。
泣いていた?
その声に胸がキュウと痛くなった。直樹が泣いても、こんなふうには意識しなかったのに、なぜ彼にこんなに入れ揚げているのか。
『俺、俊樹さんの恋人やんね?』
にこにこと聞いてきたその言葉。今日だけだ、今だけだ、とさんざん言ったのに、それを忘れたかのように新しいことを言ってくる。
冷静になれば、どれだけおかしいことかなどすぐにわかる。わかる、とは言うものの……
リムジンがマンションの地下駐車場に入った。エレベータの前で止まるので、恐る恐る降りる。
少しふらふらしているが、足腰は立つようだ。わずかに腰が痛いけれど、これは正雄が居た時もあったものだし、まぁ、いいだろう。
五時半か……臣斗くんが来るまで寝よう。
さっきまでは頭がはっきりしていたのに、エレベータの上昇の圧力で脳がずるりとどこかに行ってしまった。
起きたら、枕元にバナナが一本、ホットミルクが一杯と朝刊が数紙、置いてあった。いつもどおりだ。ミルクを飲んでバナナを食べながら新聞を開いて、読み
ながら用を足し、顔を洗ってジムルームに行く。ウォーキングマシンで少し速めに歩きながら新聞を全部目を通して、シャワーを浴びて、昌斗くんが作った食事
をする。その間、臣斗くんがずっとついて回って今日の予定と伝達事項を読み上げ、私はテーブルに置かれた直近の書類を読む。
頭がはっきりしていて、文字の方から目に飛び込んでくるようだ。
さわやかだなーっ!
「今日はさらにお元気そうですね、俊樹さん」
皿を片づけながら、昌斗くんがにこにこしていた。
「兄さんに言われたんで、少し多めに作ったんですよ。なのにぺろっと……ですもの。本当、一時期、食が細くなられてたので心配しましたけど、安心しまし
た」
そう言えば、先日まで食欲も無くなっていたな。食べていないから疲れていたのだ。だが、精神を病んでいては腹は空かない。私は、健康になったのかな。
元に、戻ったのかな。
正雄が死んだことを……忘れたのかな……
非人情ではないだろうか。
正雄が死んだことは、何をしても消えるものではないのに……
「俊樹さん」
読み上げていた書類を置いて、臣斗くんが、テーブルに置いていた私の手を取った。温かい手。
そう言えば武くんはもっと温かかった。
子供体温なのだ、と実感したものだ。彼にしろ、臣斗くんにしろ、『子供』ではないけれど。私より若い分、新陳代謝が活発で体温が高いのだ。
私はもう、四四歳を過ぎたのだ。なんだか、四二のまま止まっている気がしていた。
四三歳の誕生日を正雄と祝う筈だった。あの事故は、私の誕生日の一〇日後だった。表向きには誕生日は祝ってもらったが、正雄とはまだだった。
だから、頭の中がまだ二年前のままなのだ。
熱い手が、私の指先を握りしめる。
「人が死んだことを忘れるのは、生きている者の勤めです」
臣斗くんはゆっくりと言ってくれた。
「その人が死んだことから学ぶことがあるのならば、考えなければなりません。俊樹さんが父の死から学ぶことは、移動のさいは速やかに建物に入ること。それ
だけでしょう?」
そうだ。あの時、もっと早くホテルに入っていれば、あんなことにはならなかった。
「ゆっくり歩いていたのは父ですよ? 俊樹さんは父を引っ張って、早くホテルに入ろうとしてらっしゃいました」
当然だ……早く、正雄に抱かれたかったから……
「ゆっくり歩いていたのは父です。父が俊樹さんと同じ歩調で歩いていれば、僕達と一緒にホテルに入っていて、あの惨劇には遭いませんでした。俊樹さんは父
を引っ張ってらっしゃったんですよ?
ですから、『移動のさいは速やかに建物に入ること』これは、俊樹さんが今さら学ばれることでは無いのです。
父の死に、俊樹さんは一遍の責任も、持ってはいらっしゃいません。父の死から俊樹さんが学ばれることも何もありません。ですから、父の死を記憶の遠くに
置くことで俊樹さんが楽になるのなら、早く忘れるべきなのです。父の死を忘れようとする俊樹さんの心を、俊樹さんが責めないで下さい」
涙が、溢れてしまった。
「何度でも泣かれると良いです。涙には精神の浄化作用がありますから。泣けば泣くほど、涙の分だけ悲しみは癒えていきます。泣きたいのを我慢しないで下さ
い。いつでも、泣いて下さい。我慢なんてしないで下さい。それだけ俊樹さんに思われて、父は幸せですよ。
父が俊樹さんを突き飛ばしてまで俊樹さんを救ったのです。俊樹さんが黄泉路をさまよってどうしますか。
あなたの夢は、父の夢ではないでしょう?
あなたの夢を、父が支えたのでしょう?
父がいなくても、あなたはあなたの夢を遂行しなければならないのです。
もう十分、俊樹さんは父のために苦しんで下さいました。あなた自身のことを、考えて下さい。
そうでないと、あなたを救った父が、可哀相です……」
臣斗くんの言葉にもっと涙が溢れた。
その言葉に頷きたい。その一方で、それが心理学を応用した慰めの言葉だと、頭のどこかで計算していて、真実の彼の言葉ではないのではないか……と、疑っ
ている私がいる。
本当は彼は、父親を殺した私を恨んでいるのではないか。疎んでいるのではないか。そんなことを、考えている、私。
辛気臭い……私が辛気臭いっ!
テーブルを叩き落として立ち上がった。少し震えていた拳が、睨み付けていると動かなくなった。
よし。
「忘れるよ」
自分の拳に呟いた。そして、臣斗くんを見て、昌斗くんを見る。
「君達の言葉に甘えて、君達のお父さんを忘れさせてもらおう。しばらくは泣くと思うから、氷だけ用意しておいてくれるかな」
「準備万端です」
昌斗くんが渡してくれた、冷たいアイマスクを目に当てて、もう一度座った。両手で頬杖をつくように、マスクを抑えて目を瞑る。
気持ち良い……氷の温度が脳まで貫きそうだ。
『ファミリーを作るんだ、俊樹。お前のファミリーだ。俺とお前の血族で、お前を支え続けるんだ。巨大なファミリーだ。世界一信用できるファミリーだ』
正雄が嬉しそうにそう言っていた。
私を一番理解してくれている優秀な臣斗くんは、全世界のロビィストを難なく統括してくれている上に、資産運用も巧い。昌斗くんは、けっこう神経質な私が
何も言えないほど、身の回りを綺麗に調えてくれる。三男の景斗くんからはアメリカの最新情報が入ってくる。他の兄弟達も、警察、医療、産業、教育のトップ
に入ってくれているので、次回、私が出馬するとなれば強力な政治基盤になるだろう。
正雄が残してくれたものは、巨大だ。彼一人より、巨大だった。
臣斗くんがスケジュールを読み上げ出す。昌斗くんが片づけを始めた。そう言えば、このまま昌斗くんはこのマンション全部を掃除してくれる訳だが、武くん
の携帯電話をどうしよう。鍵付きの引き出しに入れるか?
目を冷やしている間に、臣斗くんがダイニングから消えた。今日着る服を出してくれているのだろう。携帯はどこに置いたかな。ナイトテーブルの引き出しの
中に入れた筈だから、そのままで良いか。
アイマスクを取ってみたら「まだ冷やしていて下さい」と昌斗くんが言った。まだ腫れているらしい。まいったな。とりあえず、冷やしながら歯を磨く。鏡で
確認するともう目は収まっていた。よしよし。これぐらいで腫れが引くのならば、泣くこともあまり気にしなくて良いな。部屋に帰ったら好きなだけ泣こう。泣
いて早く忘れよう。
眼鏡をダイニングに置いたままだったのでよく見えない。輪郭がはっきり見えるまで鏡に近づくと鼻がぶつかった。その汚れをパジャマの袖で拭いて、私を睨
みつける。
「私は、切り替えが早いのが特技の一つなのだ」
呟いてみた。
うん、そう。私は切り替えが早いのだ。
早いのだ。
大きなため息が出た。重たい岩が転がったように感じる。
忘れたい。忘れたくない。
「俊樹さん。着替えをそちらにお持ちしましょうか?」
「いや、そちらに行くよ。もう大丈夫だ」
服を着せつけてもらった。今日のネクタイは赤系か。うん、いい感じだ。
「いい感じだ」
「いい感じですね」
「ですね」
子供達が笑う。
正雄の子供達が笑う。
あの女の子供達が、笑う……
私は、正雄が死んだ瞬間……あの女から正雄を奪い取れた、と歓びはしなかっただろうか。
闇が、そこに転がっている。
つつがなく、カナダに出立し、バンクーバーでカナダの財務大臣と会見し、雑事をこなしてホテルに帰った。いつもなら、部屋の中まで臣斗くんが来る
けれど、今日は何か用事があったのか、携帯を気にしながら部屋の前で別れた。何か連絡があったらしい。
リビングのテーブルの上に、ケーキがあった。シャンパンも、冷えているようだ。
誰が注文した? 臣斗くんか? そんなことは一言も言っていなかったのに。
カナダでの外交など、珍しいことでもないし、祝うようなことでも無い。
臣斗くんに連絡しようと携帯を出して、番号を呼び出しながらケーキを覗き込んだ。
蝋燭が……二〇本……へしゃげているが明らかに誕生日ケーキだ。勿論、私のものではない。何か、ケーキに手をついたような潰れかただ。
水音? バスルームを覗くと、中で武くんが、上半身裸で洗濯をしていた。
ハムスターが、必死にひまわりの種を食べていてるように見えなくもない。そのひまわりの種を取り上げて、慌てさせてみたい、と思わせる風情だ。そのシャ
ツを取り上げたら、どんな顔をするだろう。
また現実逃避をしている。そんなことが問題なのではない。
「あっ! 俊樹さんっおかえりーっ!」
「お帰り、ではなかろう。どうして入った?」
「俊樹さんに会いたかってんっ」
「どのような手段で入ったのだね、と質問している」
「リュージさんに頼んだら、入れてくれた。方法は企業秘密らしぃて、寝とったから、知らんのん」
あのリュウジくんというのはそんなことまで請け負っているのか。ナニ屋なんだ一体。それより、このホテルのセキュリティーはどうなっているのだ? これ
は通報しておいた方が良いのではないのか? 私が泊まるホテルだぞ、そんな甘い所の筈が無いのだ。
だが、今通報したら……武くんが掴まってしまうな……どうしよう……
バシャバシャ。武くんは相変わらずシャツにシャワーを当てて泡を洗い流している。
君は、自分が居て良い場所ではない所に居る、という緊張感は無いのかね? なぜ私だけがドキドキしているのだ。理不尽だな。
「それで……何をしているのかね」
「お洗濯」
泡だらけのシャツを私に見せながら、武くんはにっこり笑った。笑う所ではないだろう。かわいい顔をして……
この前キスをして気付いた。彼は少しだけ八重歯が出ている。パカッと口を開けると、それが見えた。歯並びは綺麗だけれど、そこが少しだけ長くて……キス
した時に、舌に当たるから……目を瞑っていても正雄と違うのがわかる。
元が肌の匂いもなにもかも違うけれど。傍にいる男に、正雄の影を探している自分が厭になる。
違う……
正雄とは違う……
わかっているのに。
なん? と武くんが、小首を傾げて私を見上げていた。私は今、どんな顔をしていただろう。ばしゃばしゃ、また武くんがシャツを洗い出す。
「ケーキに蝋燭差しとったら、最期の一本刺した時にこけてもて、ケーキに手ぇついてもうたん……んで、シャツも汚れたから、洗ってたん…………いやや
わーっ! 俊樹さん帰って来るまでに綺麗にしとくつもりやったのにーっ! ハズカシ!」
シャツで顔を覆った武くんは、泡にむせて咳ごんだ。すでにそこらへんは彼の芸なのではないかと思ってしまうほど、間抜けだ。そしてそれがかわいい。それ
より、先程すすいでいたのに、まだ泡立っているのはなぜだ?
くんくん、とシャツをかいで、武くんはまたボディーシャンプーをシャツに垂らして泡立てた。
「何度洗うのだね」
「ケーキの臭いがとれへんのー」
「どのみち、そこまで濡れていれば一緒だろう」
「そやかてー……俊樹さんの匂い、まぎれてまうやん?」
やん? と語尾だけ重ねてまた見上げてくる。しょぼくれた小犬のような風情。かわいい……
思わず、びしょ濡れの武くんを見下ろしたまま和んでしまって、足が冷たくなってきた。スリッパが濡れて靴下まで染みてきたらしい。スリッパは、日本人用
にホテルが用意してくれているものだ。
そう言えば、まだ足を洗っていなかったな。
「シャワーを貸してくれるかな?」
「洗ったげるーっ!」
靴下を脱いだ私を認めて、武くんが嬉しそうにボディーシャンプーを手に出してねりねりと泡を出した。
「なん? 帰って来たら足洗うの、いつも?」
さわさわ、と。まったく厭らしさの無い指が泡越しに触れてくる。子供がお父さんの足を洗っているかのようだ。たしかに、彼は直樹より年下だから子供でい
いのか。そうか。
「そうだね。靴が嫌いでね。下駄で生活できると快適なのだよね」
いつもなら、帰ってくればすぐにシャワーを浴びている。出て行ってくれないかな。
「靴下も嫌いなんや? 自然派ヤネー。着物で生活したら下駄でえーんちゃうん?」
「和服がとてつもなく似合わないのだよ……」
くっ……昔、正月に羽織袴を作った時のことを思い出した。直樹が成人式を迎えた年の、正月のためにあつらえたのだ。
シャツでも、袖が通常より七センチ長いから特注なのに。袖が足りないから、布が特注になるし、その上袖が長いし、帯も上の方に来るからバランスが悪い
し、直線裁断だから躰の細さがそのまま出るし、まさしく電信柱のようだった……さすがにあの時は真喜子も褒めてはくれなかったな。直樹はしゃがみ込んでま
で笑っていた。着付けの人も、笑いをこらえて痙攣していたし……正雄だけが「お前の顔は何着ても綺麗だね」と笑っていた。「まぁ……下駄生活は諦めろ」と
肩を叩かれて、わかってはいたけれどショックだったのだ。
「あなたってなんでもお似合いになると思っていましたけれど、お似合いにならないものがあったのですねぇ。良い生地ですのに……もったいない……」
と、真喜子もため息をついていた。あの時、彼女も久保田一竹で訪問着を作っていたのだ。まだ若かった彼女に、朱鷺色の辻が花はとてもよく似合っていた。
彼女はそれを、顔を赤らめるほど気に入っていたけれど、私が和服を着ることが無くなったので、彼女もずっと洋服だった。彼女が出かける時に着ると良い、と
何度か言ったけれど。「良く考えたらピンクなんて軽々しくて、訪問先の方に申し訳ないですわよね。着物を着て遊びに行くほど着物慣れもしていませんし」な
どと言って二度と袖を通さなかった。
何も欲しがらなかった彼女が、唯一、作り手を指定してまで作った着物だったのに……
あれ以来、私も彼女も和服は着ていない。
下駄生活……本当に憧れなのだけれどねぇ……
日本に帰ったら、彼女に無理矢理あの着物を着せて食事に行こう。私に遠慮する必要はないのだから。
「俺も似合わんよーっ! 奴凧みたい、って言われたー!」
ふと、日本に意識を飛ばしていたら、目の前に出て来た武くんの笑顔。たしかに、彼の家も格式のある家だから、七五三から正月から和服だった筈だ。その和
服でリュウジくんと会ったのかな。かなり近しい付き合いだな。
「奴凧は日本の風物詩なのだから、それに似ているのは、日本人として間違いではないだろう」
「そうなんかなー? 一人で連凧すんな、ってリュージさんにイワレター。意味わからんしー」
一人で連凧? なぜそんなこと……に…………ああ、このちょこまかさは着物を着ても変わらないから。直線断ちの服を着たら残像が連凧に見えたのか。
正答かどうかはわからないが、その思いつきに自分で笑ってしまった。私が笑うと、武くんもニャハハッ、ともっと笑う。かわいい。眺めているだけで顔がほ
ころんでしまう。
「では、どう出て行く気かね」
ようやく話を元に戻せた。さすがに、入っていない人間が、ドアから出て行く訳には行かないだろう。朝は臣斗くんが迎えに来る。最後に忘れ物がないか点検
するから、隠れ場所は無い。武くんはポカンと私を見上げた。
「あ……そや、どーすんやろ。リュージさんに聞いてへんわ。俊樹さんと一緒に出たらあかんねやんね?」
「駄目だね。それより、だから、どうしてここに居るのだね。気がついた時はどこにいたのかね?」
「ソファーに寝とってん。びっくりした」
アソコ、と、バスルームの壁を通り越して、リビングの三人掛けのソファーを指さす武くん。
「臣斗くんが一緒に部屋に入ってきたらどうするつもりだったのだね?」
「それは巧いことしとくー、ってリュージさん言うてたー。万が一入って来たら、センターテーブルの上で彫像のフリしろ、て言われたー」
ミロのヴィーナスふうにしよか、ダビデ像がいいか迷ててん……などと、本気か冗談かわからないことを言う。つまりは、臣斗くんを絶対に中に入れないだけ
の準備があった、ということだ。今でも、いつ臣斗くんが入ってくるかと私は少し焦っているのだがね。それは安心して良いということかな。
部屋に入る前に臣斗くんに掛かってきた電話はリュウジくんの差し金か? 臣斗くんはいくつか電話番号を持っているが、先程掛かってきた着信音はプライ
ベートのものだ。番号は私の家族と彼の家族しか知らない筈なのに。どこで調べたのだろう。あ、臣斗くんから電話だ。
『俊樹さん、もうおやすみになりますよね? 僕はホテルを出ます。明日の朝、七時に伺います』
『夜の街に行くのかね。珍しいね』
『こちらのロビィストが、急に会いたいと行って来ました。今日はそちらに泊まると思います。支障はありますか?』
これもリュウジくんの差し金なのかな。あの臣斗くんが全然疑ってないようだ。切れた電話をしばらく見つめてしまうぐらい、驚いている私がいる。
ジャブジャブ。
私の目の前には、武くんの水音。
泡だらけのシャツを洗って、ギュッ、と絞って……武くんはそれを、着た。イい男がしたたっているよ……良い絨毯なのに……
「な……ぜ、濡れているシャツのを着るのだね?」
「んー? 他に服無いしー。着とったら乾くやん。あんねーっ、それよりねー」
武くんが、私を押してリビングに出ようとした。それよりではない、それが最優先事項だ。
「その濡れた服を脱ぎたまえ。風邪を引く」
「えー? 大丈夫やてー」
「君が引いて、私に移されては叶わないのでね。予防したまえ」
「あーっ! そっか。堪忍なー」
ぬぎぬぎ……
と、べとべとのシャツを脱ぎ難そうにしている。ひょろっと細く見えるのは物凄く着痩せして見えたのだな。なんだその腹筋と胸筋は。毎日鍛練しているように
も見えなかったのに。かわいい顔となんてギャップがあるのだ。
じっと眺めていた私の視線に、武くんがポッと頬を染め、見ちゃイヤン、と言って胸を隠した。思わず踵を返す。
なんというか……武くんの、照れた顔がかわい過ぎて……すべて忘れてしまいそうになった。
そうなのだ。私は人を好きになるとどこまでも好きになるのだ。正雄がすることすべて把握したくて仕方がなかった。
正雄は……私一人のものではなかったから……
たまに正雄が、朝からシャワーを浴びてくることがあった。正雄の匂いすらしない朝。それが、彼女とセックスしてきたからだと気付いた時、たまらなく厭
だった。
気付かなければ良いのに。勝手に悟って気分が悪くなっている自分に、さらに自己嫌悪を起こす。嫌な癖だ。
脱いだシャツをバスルームに投げ捨てた武くんは、私を追い越してテーブルに駆け寄る。テーブルについたクリームを慌てて拭き取り、蝋燭に火をつけた。
マッチを持ったまま、にちゃっ、と笑って私を振り返る。
「俺の誕生日なん。今日」
祝って祝ってー? と言うように、上半身を曲げて、下から覗き上げてくる武くん。スピッツか君は。かわいいから、だから、君。
「家族と祝わないのかい?」
「えーっ! 俊樹さんに祝ってもらわな意味ないやんっ! 二人ッキリー! えへへへへぇっ。ケーキ潰れてもたけどっ……えーよねっ? フインキ、フイン
キ!」
ライトを落とした闇の中、熱い手が私の左手を握りしめる。
「はっぴばーすでーとぅーゆー」
武くんが歌い出した。君が歌うのならば、トゥミィだろう。私の手を持って、手拍子するかのようにぱんぱん、と手を合わせる。
武くんが、歌いながら私の目を見つめて来た。歌って? 歌って? 歌って? と小首を傾げて見上げてくる。
私も、正雄も愛妻家として通っていたから、互いの誕生日の夜は、家庭で過ごした。
大体は互いの家族を招待し合って過ごしたが、子供達と彼女達が邪魔だった。
邪魔だと……意識してしまう自分の心が厭だった。
「ハッピバースデー、ディア、武くん」
私が歌うと、闇の中、ニチャッ、と武くんがもっと笑った。私の手を持ったまま、飛び跳ねそうに躰を揺らしている。
「ハッピバースデー、トゥーユー」
私の歌に合わせて、武くんが蝋燭を吹き消した。
一瞬の暗転。
チュッ、とくちびるに、キス、の感触。
「ありがと、俊樹さん」
チュッ、チュッ……抱き締められて、キス、キス、キス……
「めっちゃうれしぃわぁ……しゃーわせぇーぇーぇー……」
ああ、武くんは臣斗くんと同じぐらい上背があるのだな。私がすっぽり隠れてしまう。正雄より、少し高い。鼻が鎖骨にぶつかってしまう。いつも下から覗き
上げてくるから、小さな子供のように感じてしまうけれど。背筋を伸ばすとこんなに大きい。
八重歯が、舌に当たる。
くちびるへの優しい感触に酔いそうになった時、武くんの手が私の腰を掴んで、くるくるくる、とその場で回転させた。ナニ? 一瞬の目眩。そのまま、シャ
ツをズボンから引き出しし、胸にっ……キスっ……うっぁっ……
ジュッ……と音を立てるぐらい吸いつかれて、ジクンッ……と、躰が震えた。
「俊樹さんの、匂いぃ……するぅ……」
ぺろっと胸から脇まで舐め上げられて、囁かれた。
今までは、シャワーを浴びてからあそこに行っていた。今日は、朝から一度もシャワーなど浴びていない。先程浴びようとしたら彼がいたから、そのままだ。
「シャワーを……浴びさせて、くれ……ないか? ……ぁんっ……気持ちが悪い……汚いよ、舐めない……でっ……うっ……」
股間を服の上から揉まれたまま、ベルトを外してくる。くちびるは胸。乳首を軽く噛まれて、下ることもできない。
「俊樹さんお好みの、真っ暗闇の中やでー? 恥ずかし無いやろ?」
「そう言う問題では、な、かろ……うっ……」
ファスナーを下ろされて、あっと言う間に私のものを、呑み込んだ、彼の、口っ……
彼は私の足元にしゃがみ込んでいるのだろう。吸い上げられるとくらりと酩酊感が襲った。
一条の光も無い中、どこが上なのか下なのか分からなくなってくる。立っていることが難しくて、彼の頭にすがりついた。しがみつきたいのに、抱き締める躰
がない。彼の頭は私の腰より下にしかない。躰がっ揺れるっ! バランスがっ……下は毛足の長い絨毯だとは言え、この体勢で後ろにこけたら、最悪、首の骨が
折れるっ……多分、武くんの伸ばしている足の上に落ちるだろうし、彼の足が折れるかもしれないし、大体、銜えられているそこが、歯で引き裂ける可能性
が……っ……
「あっ……やっ…………もっ……怖いっ! 武くんっこけるっ! 倒れるっ! 怖いっ!」
「えー?」
呑気な声が、股間から湿った音で聞こえてくる。
「怖いんはあかんなぁ……じゃあ、座ってぇ?」
座る? 武くんが私の膝の少し上に手を掛けて下に押した。
「絨毯に膝をつくのは……いやだ……」
「ワガママやなぁっ! 相変わらずっ!」
「土足で歩いている絨毯だぞっ! 当然だろうがっ!」
「怒りないなー。ごめんって……」
彼がもっと吸い上げてくる。先端をきゅぽきゅぽ吸ったり押し出したりしながら、ベルトを外して……スラックスが足元に落ちた。下着の下から手を差し込ん
で、尻を両手でもみ込んでくる。皮膚が突っ張って穴が動くと、ジワリと来た。
「やめろとっ言うっのにぃっぃっ!」
「匂いする方が……ええ、やん……か……人形、相手に、……しとるん……ちゃう……ん……やし…………ええ匂い、……やで……?」
「銜えたままっ……喋るっ……なっ……ぁっ!」
「俊樹さんの、匂い」
歯が、甘噛みするように、当たる……武くんの八重歯がっ……カリッカリッ……と、引っ掻かかれるよう……
「ベッド……へ、行こう…………武くん……」
もう、限界。立っていられない。今すぐ膝が抜けそう。
「ベッド好きやねぇ」
なぜそこでため息をつく?
「転倒するとか、バランスがとれないとか、そんな不安感の無いセックスをしたいのだよ……床なんかに膝をついたら、汚いし、膝が痛いし……骨に異常が来た
ら、私の年では治らないのだぞ」
若さが違うんだ! 若さが! 私の年ではもう無茶はしてはいけないのだよ。
「……スリルある方が面白ない?」
「スリルなんか、国政だけで十分だ……」
本当に……外交より国内問題の方がドキドキする。英語やフランス語より日本語の方が通じないとは、どういうことなのか問い詰めてみたい。
「ああ、そっか……」
私の股間で気の抜けた声を出さないでくれたまえよ……
「俺、日常生活がつまらへんから、エッチにスリル欲しぃなるけど……そっか。俊樹さんは安心安全で気持ちいーのがほしいんや?」
笑ってる笑ってる……だから……喋るなら口を離して……くれたら……ううっ……
「……そうだね。間違いなく、予定調和が欲しい。今日、君は何をするのだろう、とドキドキするのは、精神安定に悪過ぎる」
「ごめーん。全然思いつかんかったわ。じゃ、ベッド行こか? シャワーはええのん? 俊樹さん」
とても理解してくれたらしい。この子は、最近の若い子にしては言葉が通じるのだな。……と、言いながら、口と指がっ激しくっ……
「ぁあっ!」
下着の下で、武くんの掌がクロスした。右手で右の尻を、左手で左の尻をもみ込んでくる。指がっ……あそこの近くっ! 穴を押し広げるようにっ引っ
張っ……てっ……中が、ぁっ……動くっ……ぅっ……
尻を揉みながら、武くんが立ち上がった、気配……胸を合わせて、抱き締められて……っ……ぁっ……いつのまに、武くんは全裸……私はネクタイもしたまま
なのに。まくられた腹から腰、太股に彼の肌が当たる。
灼い……肌が……当たる…………
彼の大きなものが、私の足の間にっ……陰嚢を持ち上げて、奥のツルツルした所をごりごりこすってくるっ……そこっ……力がっ抜けるっ!
クロスしていた手が元通り、左手で右の尻を、右手で左の尻をもみまくる。物凄い勢いで揉んでる。汁になって噴きだしそうっ! ぐにぐにされるたびに、最
奥が歪んで延びて押されてっ……直接触ってはくれないその圧迫感だけで、息が熱くなるっ!
「俊樹さんの好きなとこ歩いて? ぶつかる時は俺の背中が先にぶつかるから、遠慮せんでええよ。怖無いよ? 俺が支えてるから」
「歩けっ……なんてっ…………っ……手をっ離せっ……」
「いやーん。今日俺の誕生日なんやからー。いっぱい俊樹さんにさわるんーっ! 触りまくんのんっ! 明日は会議無いんやろ? 観光だけやん?」
「視察と言うのだよっ! 観光では、ないっ!」
「映画のロケ地巡りなんか観光やん」
「フィルム・コミッションは立派な産業だっ!」
「それ経産省の分野ちゃうん?」
「次の立候補でどの大臣になるかはわからないのだから、どの分野の視察も有意義なのだっ!」
「あーいえばこーゆーっ……政治家に口で勝とうと思うのが間違いでしたーっ! 口、塞いだろっ!」
「くぁっ……あっ……!」
下の口をっ、塞がれたっ! どういう体勢なんだ! 腰がっ……膝がっ! 抜けるっ!
「何年か前に、カナダで同じルート行ったんやろ? なんでまた同じとこ行くん? あんなちっちゃい蒸気時計二回も見んでええやん」
「私がどんな時計を好きだろうが君に文句を言われる筋合いは無い!」
ギャスタウンは学生時代に正雄と行って、数年前にももう一度行って……今度行っても、隣に正雄が居るのではないか……と。ルート選択を迫られた時に、つ
いギャスタウンを選んでしまったのだった。
あの時はまだあのクラブを知らなかった。当然武くんと出会っている訳もない。鬱々していたし、泣くのをこらえるので必死だった。
ギャスタウンの単語を眺めただけで泣きそうだったのだ。
今の気持ちで赴いてどう感じるのか。今はそれも実験のような気がする。
でも、それより…………武くんのっ……ううっ!
武くんが一歩下がった。慌てて私が前に踏み込む。動くと重心がずれてっ……中の武くんがっ跳ねるっ!
「あっ……待ってっ……動かっないっ……でっ……」
「リビングの真ん中におったら、いつまで経ってもシャワーもベッドもたどりつかんよ? そのままトントン歩いてーっ」
「うっあっ……あああぁっ!」
武くんが、私の腰を軽く自分の腰に乗せて、後ろに歩いた。そしてドンッ、と何かにぶつかる。その衝撃がっ、中に真っ先に来てっ……イっき、そっうっ……
咄嗟に武くんの後ろに手を伸ばすと、訳のわからない冷たい感触があった。これはあれだ。ローチェストの上に置かれているマイセンの置物だ。こちらは大き
な花瓶。花瓶は……バスルームへ向こう廊下の左傍にあった、筈。ここに角が……あった。
「頼む、武くん……離して……離してくれ。シャワーを浴びたあとで…………ゆっくり、ベッドでしよう? 頼むから……」
「離れるのはイヤやー。とりあえず、シャワーやね?」
「うぁっあっ……動くっなっぁっ!」
「動かんと、いつまでもシャワー行かれへんよ? 俺はここで俊樹さん押し倒してもええんやから。いやなん俊樹さんでしょ? ほら、歩いてー」
腰が砕けるっ……今すぐ膝をついてしまいそうっ…………痺れてっ……躰がっ……
「シャワー入る前に、服脱がなねー」
壁に背中を押し付けられて、ボタンが外されて行く。ネクタイを外されて、ようやく息がつけた。
「えっと…………たしか、ここらへん、に……ぃ……あったあった!」
ざりざり、と武くんの掌が壁を探って……電気が、ついた。
洗面所!
目の前に、鏡っ!
全裸の武くんの背中と、お尻、足……その奥に私の右目っがっ……武くんの腰の両脇から、白い足がっ……
「やっ……電気っ! 電気を消せっ! 電気っ!」
スイッチに手を伸ばしたが、その手を壁に縫い止められる。
「あかんよー。さすがにお風呂は電気つけな、こけて死ぬで?」
にっこり笑う武くんの顔が、見える。チュッとキスしてくる。離した顔で、少し視線を下ろした。その先は、私の、胸っ!
キュッ、と両方同時に乳首をつままれて、腰が抜けた。
「あっ……ぁああぁっ!」
こねこねこねこね……と胸をいじられながら、喉元にかじりつかれる。武くんの上半身が動くと、中がっ……手前にえぐられてっ…………
押しはなしたいけれど、離れたらそのまま絨毯にこけてしまいそうで武くんにすがりつく。その腕が鏡に映っていてっ……なんて淫ら、な……
「……頼むから……武くん……電気を……消して…………消して……くれ……」
「このままさっとシャワー浴びて、さっと寝室行ったらすぐやよ?」
「電気を消せっ!」
バン、と壁を叩く音とともに電気が消えた。ホッと……した、のに……
「はっ……アグッッアアアァッッ!」
最奥から突然の衝撃が来て、喉から突き出そうになった。
膝……膝に絨毯の、感触。ナニ?
床に、座っている? 太股の間に、武くんの、足……
衝撃に躰が震えてっ……腰が震えると武くんを締め上げて、すると武くんが中で跳ねて、それに私がまた震えて……止まらないぃっ!
「ぁあっ……ぁあああぁっ! ひっひぃっ……腰がっ溶けるっぅっ!」









